月下美人とセミ

お客様から「11月に入って月下美人が咲きました」とのメールが来て驚いていたのですが、その月下美人はたまに季節を外して咲くらしいです。

この月下美人が季節外れに咲くときは秋冬にかけて寒くならない時とか、季節外れの急激な暖かさが数日続く時に咲くらしいです。肝心なのはその暖かさが続いてから咲くのではなく、前もって分かっているかのように蕾を付けるらしいです。だからこの月下美人が蕾をつけた秋はとても暖かく、夏が長い時か秋の冷え込みがあまり無い時だと前もって分かるそうです。不思議ですね。

また別のお客様は家の横に山があり、夏は毎年セミの鳴き声を楽しんでいるそうですが、ある年に物凄い数のセミが一斉に一度に土から出て体験した事がないほど鳴き声が五月蝿かったそうです。普通はもっと長い間満遍なくセミが入れ替わって鳴くのに、その時は本当に全員が一気に出てきて大合唱だったそうです。後から考えれば異常なほど夏の暑さが短い年だったらしく、今年の夏は暑い時期が短いと分かっていて、大急ぎで土から一斉にセミが出てきたんじゃないかと仰っていました。そうだとすると彼らはなぜ前もって季節を知っていたのか、とても不思議です。

私たち人間は人工衛星や各地のアメダスとか気象レーダー等を駆使して天候や季節を捉えていますが、彼らの様に季節を読み切れてはいません。というか、そこまで読み切る必要性がありません。
夏が長くても短くても、暑くても寒くても、今の日本においては大凡の人は命に関わるような事にはならないでしょう。そりゃ電気代とか燃料代が高くて困るなあとは思いますが、本当に生き死に関わるまでには至らないでしょう。そこにヒントがあるんじゃないかなと思います。

彼らは生きる事に真剣だから、分かるんじゃないかなと。
いや人間だって真剣だよと怒る人も居そうですが、本当に今の日本を見渡して真剣に生きている人ってどれぐらい居るのかと。個人的に「真剣」とは、生活に、日常に、自分に、家族に、直接関係のある人や物や物事に、真剣かどうかが問われていると思っています。

私は「TVを捨てろ」と言い続けていますが、TVに代表される様なメディアが持ってくる情報は私たちに直接関係の無い事ばかりです。
遠い国の話、遠い存在の芸能人の話、直接どうする事もできない話、、、
そんな事に頭や心や時間のリソースを割く態度を、私は「生きる事に真剣」だとは思えません。
下手をすると、「月下美人やセミが今年の季節の長さが分かったところで、一体我々になんの得があるんだ？」とか言いかねない社会の様な気もします。

私はこの月下美人の写真を見て「恥ずかしい」という気持ちになります。
彼らの真剣さにはとても勝てないなと。